スペインバルやレストランでよく見かけるイベリコ豚の生ハム、通称ハモン・イベリコ。もしかすると皆さんの中に「ハモン・イベリコってどうやって作ってるんだろう?」と思った方がいらっしゃるかも知れません。今回はイベリコ豚が育つところから製品として流通するまでの過程を説明していきます。
ちなみに、ハモンとは常に後足のことを指します。前足はパレタと呼ばれ、明確に区別されています。残りの部位はチョリソやサルチチョンなどの腸詰め製品に使われたり、精肉として流通します。さて、どのようにして美味しいハモン・イベリコができるのでしょう。
イベリコ豚の飼育
ハモン・イベリコはイベリコ豚の後足を加工した製品です。ポルトガルにまたがるデエサと呼ばれる広大な土地で、イベリコ豚は放牧され、主な餌であるドングリを探し求めて自由に走り回ります。ドングリには糖類や炭水化物が豊富に含まれていて、ドングリが実る10月末~3月頃にイベリコ豚の体重は急激に増加します。この期間をモンタネーラと呼びます。1日に8kg以上もドングリを食べ、2~3ヶ月の間に体重を倍増させます。
アルトゥーロ・サンチェスではこのモンタネーラを2回行っています。通常イベリコ豚は1年間育てられ、その間1度のみモンタネーラを経験します。2年間育てることでドングリの摂取量が2倍になり、極限にまで発達させています。そうすることで上品な脂、芳醇な甘さを得ることになります。
イベリコ豚はドングリやハーブを食べ続けることによって、筋肉に脂肪を染み込ませる特性があります。この特性こそがハモン・イベリコの美味しさの秘密です。 一定の体重に達するとその後の加工に移ります。
デエサには起伏のある地面、体を冷やしたり洗ったりする水たまり、そして丁寧に手入れされたドングリの木があります。このデエサの環境とイベリコ豚の特性があってこそ、ハモン・イベリコは他の生ハムよりも繊細で、脂がうまく浸透したものになります。
加工工程
屠殺の工程は美味しい生ハムを作るのにとても重要です。一般的には足の骨下約5cmのところを丸く切断します。切断時、余分な脂肪や軟骨などを取り除きます。
その後マッサージをすることで血抜きを行います。中心から先端に向かってすべての血液を出し切ることがとても重要です。
次は塩漬けの工程です。目安としては肉の重量1kgあたり1日の割合で塩漬けを行いますが、この期間は生ハム職人たちの裁量によって調整されます。長ければ長いほど腐敗する可能性は低くなりますが、製品自体の塩分濃度も濃くなります。また、地域によっても異なり、例えば北部の涼しい地域では短く、南部の熱い地域では長くなる傾向があります。
生ハムをひっくり返して全体にまんべんなく塩が行きわたるまで待ちます。そして塩を水で洗い流し終わると、乾燥室に移動させます。
乾燥の工程では、温度と湿度がコントロールされた場所で生ハムが熟成を進めていきます。熟成中は生ハムの水分が抜けていき、脂肪がゆっくりしたたり落ち、肉自体が小さく硬くなっていきます。乾燥室では、この後の熟成工程に備えて約6ヶ月の間、非常に低い温度から徐々に温度を上げていきます。そうすることで脂肪が安定して、生ハムの肉が特徴的な味になります。
通常、マンテカ油やオリーブオイルを生ハムの表面に塗ってから熟成を行います。原則、生ハムの熟成期間が長ければ長いほど品質がどんどんよくなります。期間は生産者によってまちまちですがだいたいは2~4年。アルトゥーロ・サンチェスでは最長5年の熟成期間を設けていて、いかに手間ひまをかけているかがわかります。
今回はハモン・イベリコがどのようにして作られるか、それぞれの工程を説明しました。 長い期間を経て生まれたハモン・イベリコは、職人技や知識や経験、そのすべてがつぎ込まれた芸術品です。生産者の情熱が直接品質に影響を与えるのです。
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