生ハムはヨーロッパでは昔から保存食として親しまれてきました。生ハムのはもともと山岳部の涼しく乾燥した気候の地域で生産されてきました。塩漬けを行って乾燥熟成させることで旨味を向上させて保存にも耐えうる食品として重宝されてきました。
スペインやイタリアの生ハムは日本の生ハムと違って、熟成が大変重要な役割を果たします。
日本におけるハム類の熟成についての認識と、ヨーロッパにおけるその認識についての違いをご説明します。
日本国内における「熟成」
日本で生産されるハム類などで「熟成」をうたう製品があります。農林水産省によって定められている「熟成ハム類の日本農林規格」においては、「熟成」の定義及び期間について次のように定められています。
原料肉を一定期間塩漬することにより、原料肉中の色素を固定し、特有の風味を十分醸成させることをいう。
熟成ハム類の生産の方法についての基準は、塩漬剤又は塩漬液を用いて原料肉を低温(0℃以上10℃以下の温度をいう。)で7日間以上塩漬することとする。
出典元:熟成ハム類の日本農林規格
つまり塩漬液を用いて7日間以上塩漬を行うことで「熟成」とうたうことができるのです。
ヨーロッパにおける「熟成」
一般にヨーロッパの生ハム作りの工程は以下の流れで行われます。
- 原料の塩漬け
- 洗い
- 乾燥
- 熟成
日本では塩漬け=熟成だったのに対し、ヨーロッパでは熟成庫での乾燥=熟成という認識です。この熟成は1~2年、イベリコ豚の生ハムでは最長で60ヶ月もの期間を要します。熟成を行うことで保存性を高め、肉の旨味を増幅させているのです。
熟成は微生物の発酵作用を利用し、香味を付けると同時に、防腐効果を高めて保存性を持たせています。この製法の違いが、生ハム自体の味や栄養価を高めているのです。
生ハムの熟成効果
ハモン・イベリコやハモン・セラーノの製造工程は、塩漬け→洗浄→乾燥・熟成となります。この乾燥・熟成工程で白カビなどの菌が発酵作用を引き起こします。つまり、長期にわたる熟成においてはこの菌が大変重要な役割を果たすのです。
ひとつは、お肉の保護。表面にカビが付着することによって、肉の表面からの腐食を防ぎ熟成を可能にしています。また、塩漬けの際に添加された硝酸塩や亜硝酸塩の残存量を低下させる働きもあります。
もうひとつは、タンパク質の分解作用。タンパク質が分解され、アミノ酸へと変化します。生ハムをカットした時に現れる白い斑点は、このアミノ酸の結晶なのです。さらに、タンパク質が分解されるということは、消化・吸収を良くするという点でも大変重要です。
乳酸菌発酵で、肉の長期保存を可能にするだけではなく、風味を良くし、栄養価も上げ、 消化しやすくする効果が生まれます。
まとめ
日本国内では食品衛生法により微生物を排除する製法での生ハムしか生産されてこなかったのです。一方、ヨーロッパでは紀元前から生ハムが存在し、保存食として親しまれてきたという歴史があります。
日本の生ハムとヨーロッパの生ハムでは、製造方法が全く異なるものの、我々がイメージする「熟成」という言葉の認識としてはヨーロッパの製法に近いように思います。
例えば日本で近いものに鰹節が挙げられます。鰹節の中にはカビを付けて水分を抜きながら乾燥熟成を行うものがありますが、この製法で作られた鰹節は高級品として扱われています。カビを付けて熟成させることで旨味成分であるアミノ酸が増え、味わい深いものになります。これはヨーロッパの生ハムの製法と大変似ています。
このように国産の生ハムとヨーロッパの生ハムでは熟成の認識が異なるため注意が必要です。
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